アルフォンス・ミュシャ『トリポリの姫君イルゼ』挿絵【第1部第1章】（両面 No.9&10）

騎士の誇りと若者の葛藤とが交錯する宮廷の一幕。
美食や戦いに心躍らせる貴族たちの中で、ひとりその価値観から距離を置く青年ジョフレ。その姿に浮かび上がるのは、中世という時代の中に芽生えつつある繊細な感性の兆しでした。

作品解説

この章は、ジョフレという若き騎士候補の人物像を紹介する場面です。登場するのは、彼を取り巻く領主たちや学識者たち。彼らはジョフレの武への冷淡さ、美食への無関心、祝宴の騒がしさを好まぬ姿勢を「奇異」と見なしつつも、どこかでその精神的な高潔さを感じ取っています。

文章はウィットと風刺に満ちており、まるでバロック的な語りのリズムで、騎士道世界の矛盾と規範を浮かび上がらせます。
上部の装飾では、牡鹿を追う猟犬たちの図像が配置されており、若者に向けられる社会的期待（狩り・武勇）を象徴しています。一方、右ページ下部に描かれるのは、騎士としての威厳に満ちた人物像。しかしその厳格な装いの中にも、どこか形式化された虚飾がにじみます。

ジョフレという存在は、この物語全体を貫く〈内なる声に従う誠実さ〉の象徴でもあります。
この導入章においてすでに、物語が単なる騎士道活劇で終わらぬことを、ミュシャの挿絵とともに静かに予感させているのです。

この作品は、1901年にドイツ語で出版された豪華挿絵本『トリポリの姫君イルゼ』に収録された1枚です。

• 作品名：「トリポリの姫君イルゼ」より挿絵

• 画家：アルフォンス・ミュシャ（Alphonse Mucha, 1860–1939）

• 制作年：1901年

• 技法：カラーリトグラフ（両面印刷）

• サイズ：約 30×20cm（紙面）

※画像中の額装は参考イメージです。額装につきましてはお問い合わせください。

関連リンク

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《アルフォンス・ミュシャと『トリポリの姫君イルゼ』｜物語と挿絵の魅力》

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